イラストに意味をもたらしてくれる存在です
ファッションイラストレーター
ニシイズミユカ
街角で発見したオシャレな人のスナップや、ご自身のファッションコーデをイラストにして発信する「服装日記」がインスタグラムで注目を集めているイラストレーター、ニシイズミユカさん。描き出すイラストは、とってもオシャレでスタイリッシュ、でもどこか自然体。洋服の質感やコーディネート、ポージング、さらには事細かに書き込まれたファッションのポイントまでもが「参考になる!」と話題になり、女性ファッション誌や企業からお仕事のラブコールを受けることも増えてきているとか。
そんな彼女が描くイラストをよく見てみると、お馴染みのサインペンの黒があちらこちらに…!「めちゃくちゃ使ってますよ」とご本人が力強く語るほど、ニシイズミさんのイラストには、頻繁にサインペンが登場していると言います。サインペンとご自身のイラストとの相性、そして独自のファッションイラストのルーツについてお話を伺いました。
ファッションイラストに
欠かせない“備品”
「あ、そうそう、これもサインペンで描いてるんですよ。」
と言いつつ膨大な過去の作品の中から、サインペンで描かれたイラストを披露してくれたニシイズミさん。私たちを驚かせたのは、彼女のイラストに度々登場するサインペンの軌跡でした。インスタグラムで日々更新されるニシイズミさんの繊細なイラストに、まさかサインペンが使われているとは知る由もなく。驚くほど自然に、イラストに溶け込んでいたのです。確かによく見ると見覚えのある、あのくっきりとした黒のサインペンが。
イラストレーターとしてデビューする以前は、仕事で使用する制服や学生服を作る企業のデザイン部に勤務。生地の開発やその生地を使った服の提案など“描く”というよりは“作る”ことでファッションに関わっていたといいます。そんな会社員時代にも、サインペンは日常的な存在だったようです。
「会社の備品棚にいつも大量にサインペンがあって。サインペンを1人何本か所持しているというのが当たり前の環境だったんです。社内ミーティングの時には自分がラフ描きしたデザインの上に、いろんな色のサインペンで修正やコメントを入れてもらってましたね。」
そんな積極的にサインペンを使う環境にいた彼女は、イラストレーターとして独立してからも、その“備品”を手放せずにいるとか。その理由は発色の良さ、タッチの柔らかさ、線の太さといったまさにペンとしての機能がお眼鏡に叶ったからこそ。
描いていてムラが出ない、そんなサインペンの描き心地が彼女の描くファッションイラストの線にぴったりと合っていたのでしょう。
街角での発見や興奮を
もっと他の誰かと共有したい
あまり活発に外に遊びに出るタイプではなく、自宅でイラストを描くのが大好きだったという幼少時代。地元静岡県浜松市の高校を卒業後、デザインに興味を抱き東京へ上京。「桑沢デザイン研究所」に入学し、そこで本格的にデザインを学び始めました。
「もともとはグラフィックデザインを学びたくて専門学校に入ったんです。でも、いろんなジャンルを学んでいくうちに“ファッションって楽しいな”と思うようになって。2年生になって専攻を決めるタイミングでファッションを選びました。その頃からファッションドローイングにはまっていて、ちょうど学校が渋谷にあったということもあって、よく渋谷や原宿の街角に出てはおしゃれな人をウォッチングして。“東京ってこんなおしゃれな人がいるんだ!”ってもう興奮しながらドローイングしてましたね(笑)」
そんな時は「描かなきゃ!」という衝動に駆られるのだそう。オシャレな人のコーディネート術を収集しているだけでなく、ファッションに対して新しい発見をしたときにも、素早くペンを走らせるそうです。
「服が好きな人ってこういう着こなしをするのか、とか。観察日記のようなイメージでしたね。写真で撮影すればそのまま再現できるんですけど、私は一回イラストを描くことで自分の頭で“なんでその着こなしなのか?”を考えるのがすごく好き。頭の中で消化して、整理して、そうしていくうちに興奮が落ち着いてくるんです(笑)。」
イラストに事細かに記されたファッションに対する鋭い考察や、ご自身のコーディネートの解釈はそんな街角でのドローイング経験から磨かれた審美眼の賜物。この経験がニシイズミ流のファッションイラストを確立していく原点となっていることが垣間見えます。そんな彼女が“作る”から“描く”にシフトしていったのもこんな理由から。
「制服のデザインや生地の開発はどうしても届ける人が限られてしまいます。みんなが私のデザインした服を着てくれるわけじゃないですしね。でも、イラストなら色んなものを媒介として、もっとより多くの人に参考にしてもらって、喜んでもらえると思ったんです。実家の両親に初めてイラストを手がけた化粧品のパッケージを見せたら、すごく喜んでくれて。それを見て、ああ、私が一番やりたいのはイラストなんだなって思いました。」
ご自身が街角で発見した気づきや感動を、今度は誰かに共有して伝えたい。そうすることで、それを見た人が共感したり、参考にしてもらえたらいいなという想いが彼女のイラストには込められているのです。
ONの時もOFFの時も
描くを支えるサインペン
ニシイズミさんにとってサインペンとは、どんな存在なのか質問を投げかけるとこんなお答えが。「リラックスした気持ちで描けて、自分の意のままに表現させてくれるペン」
その言葉の通り、サインペンを手にファッションドローイングをしている時は、頭の中でボヤ〜っと考えながら描きたいように描くのだそう。下書きはせずにとりあえず目で見た情報をイラストに落とし込んでみる。
「サインペンで描く時は、“とりあえず描いてみよう”っていう感覚です。私、ニットを編むのもとても好きなんですけど、その時と同じような感覚ですね。“だいたいこのぐらいかな〜?”とか思いながら、楽しい気分で編んでいって、ざっくりと作っていく。人によって作り方は様々で、もちろんきっちりと決めて作っていく人もいるんですけど、私は性格上ザクっとしていて(笑)。
それと同じでサインペンで絵を描く時もリラックスして描くんです。なので、どちらかというと“私”的なシーンで使うペンという印象が強いです。そんな風にざっくりと描いたりしているから、時々想像とは違う仕上りの線が生まれたりして。でも、それが逆に面白いんです。」
ニシイズミさんにとってサインペンでドローイングしている時は、肩の力を抜いて素の自分に近い状態になっている時。そんな時に自然と手にして、オフな自分にスイッチを切り替えてくれるのがサインペンなのだといいます。一方で、サインペンを“作品のシメ”としても使っているというお話も。ニシイズミさんのイラストの特徴の一つがレタリング。このレタリングについてニシイズミさんは、「作品の意味づけをしてくれるもの」と語ります。
「サインペンでレタリングするのは、最後の最後。まさに“大トリ”です。先に描き上げたイラストに説得力をプラスしてくれるのがサインペンなんです。イラストがキュッと締まる強さが欲しくて、しかも見る人の目を止める、パッと見てわかる視覚的な伝わりやすさを表現したいから、レタリングはやっぱりサインペンなんですよね。」
リラックスした素の状態で、ニットを編むようにイラストを編んでいく“OFF”に寄り添うサインペン。そして、描き上げたイラストを広く発信していくために、説得力を加え、作品に命を吹き込んでいく“ON”に活躍するサインペン。異なる二つの役割を担いながら、サインペンはニシイズミさんをしっかりと支えていました。
さて、明日はニシイズミさんの手からどんなファッションイラストが生まれてくるのでしょうか。そしてサインペンは、その過程でどんな活躍をするのでしょうか。ニシイズミさんのイラストの世界がどこまで広がっていくのか、これからがますます楽しみです。
- ニシイズミユカ
- ファッションイラストレーター。静岡県浜松市出身。
幼少期から絵を描くことが好きで、高校生のときから携帯電話専用のブログサービス「デコログ」でイラストを発信し始める。高校卒業後「桑沢デザイン研究所」に入学。グラフィックやファッションデザインを学ぶ。卒業後、ユニフォームを製作する企業へ就職。テキスタイルの開発からデザイン、制服の提案まで行う。在職中から日記×ファッションをイラストで表現する「ファッションイラスト」をインスタグラムで投稿し、瞬く間にSNS上で火がつきフォロワーが急増。現在では、女性ファッション誌のコーディネート企画のイラスト、企業の商品パッケージまで手がける。