ぺんてる“北さん”との出会い。サインペンって凄いペンじゃないか!
イラストレーター
谷口亮
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けさまざまな話題に湧く日本。
そんな中、2018年2月に東京オリンピック・パラリンピックの公式マスコットキャラクターの産みの親として一躍時の人となったのが、福岡在住のイラストレーター谷口亮さん。五輪史上初となる一般市民による投票で決定したマスコットキャラクター「ミライトワ」と「ソメイティ」。すでに五輪のポスターや公式サイトなどで見かけた人も多いのではないでしょうか?
そんな谷口さん、実はぺんてるとは意外な関わりがあるお方。これまでのイラストレーター人生や作品について、そしてサインペンとのエピソードを伺いました。
今をときめくイラストレーター谷口さんは熊本生まれ福岡育ち。現在も福岡を拠点に活動し、東京や各地を忙しく動き回る日々を送っているそうです。そんな谷口さん、実はぺんてるとは意外な接点があるお方なんです。
「もう今から20年くらい前だから、僕が20代の時。イラストレーターとして駆け出しの頃、当時お金がなくて百円居酒屋みたいなところでよく飲んでいたんです。その居酒屋で突然僕に声をかけてくれた人がいて、それが“ぺんてるの北さん”だったんですよ。」
“ぺんてるの北さん”こと、ぺんてる社員の北崎さん(当時福岡営業所勤務)に居酒屋で偶然声をかけられすっかり意気投合。それからというもの定期的に集まってはお酒を酌み交わす仲へと発展していき、そのご縁から10年ほど前にはぺんてるの商品カタログにイラストを起用してもらったこともあるのだとか。当時からぺんてる製品について北さんからさまざまなうんちくを聞いていたという谷口さん。
「よく飲みながら北さんはサインペンの性能や歴史なんかを語ってくれました。僕はいつもそれを聞きながら“へぇ〜そんなすごいペンなんだ!”と驚いてばかりいたんです。その出会いがきっかけでサインペンを自分でも購入してみたりしましたね。」
それ以前から、サインペンは何気なく使っていたという谷口さん。それまでサインペンは特別な存在ではなく、ありふれたペンという認識だったそうです。そんなサインペンが北さんとの出会いをきっかけに「なんか凄いペン」として再認識されていったというのは、なんとも偶然な巡り合わせ。
北さんから聞いたエピソードについて印象に残っているものを伺うと、
「北さんから聞いて特にびっくりしたのが、インクの話。ペン先が特殊なフェルトで出来ているから、どこまで描いてもインクかすれがない。大体のペンはペン先にインクが詰まって描けなくなるけど、サインペンは唯一インクがなくなる最後までかけるペンなんですよ。ペン先が摩耗して潰れていっても描けるって、凄くないですか?なんでこんなすごいストーリーをもっと世の中に言わないだろう!?って僕はずっと思ってました(笑)」
北さんとの出会いによって、サインペンの魅力を知った谷口さん。自分で購入するようになってからは「万能なペン」として活用するようになったんだそう。
「サインペンって字も絵も描けるところがいいですよね。イラストのラフ案とかササっと何かを描きたいときに使い勝手がいいんですよ。あとはデザインするときにちょっと輪郭を描いて視覚的に見たいというときや、頭の中にあるボンヤリしたものを出したいというときに最適ですね。」
近頃ではサインを求められることも多くなった谷口さん。サインの時はぺんてる筆でイラストを描くなどぺんてる製品を日頃から愛用するようになり、サインペンも今ではカバンの中に忍ばせているペンの1つなんだそうです。
二頭身キャラクターの原点、
背中を押してくれた父の一言。
谷口さん作品の最大の特徴といえるポイントが二頭身のキャラクター。この作風はどのようにして生まれたのか、その原点を聞いてみました。
「子どもの頃から、コロコロコミックとかコミックボンボンに登場してくる、可愛いけどカッコイイっていうイラストがずっと好きだったんです。その頃から、二頭身のキャラクターを自分でもよく描いていました。海外の学校で絵を学んでいたときは、写実的な絵を描いてばかりで、好みも変わってマッチョなアメコミキャラを描いてみたり色々と模索していたんですよ。卒業して日本に戻ってきた時に、ふと昔描いていた二頭身のキャラを思い出して。絵の勉強をした今の僕があのキャラクターを描いたらどうなるんだろう?と興味があってまた描き始めたのがきっかけですね。」
谷口さんの父、谷口富(ゆたか)さんは同じくイラストレーターとして活躍する方。そんな父とのやりとりの中にも現在の作風につながるエピソードがあるんだとか。
「父は僕が子どもの頃、何を描いてもよく褒めてくれたんですよ。だけど僕が“絵の道に進みます”って言ってからは、全然褒めてくれなくなって。むしろダメ出しされることが圧倒的に多くなりました(笑)。自分の作風をまだ模索していた時に、僕が描いた二頭身のキャラクターを見て父が“それ、面白いやんか!お前キャラクター一本でいけ!”と久しぶりに褒めてくれたんです。プロのイラストレーターがいうなら、間違いない!よし、これだ!と(笑)。その時、二頭身キャラクター1本で勝負しようと決めたんです。」
それから二頭身の作風でオリジナルキャラクターを描き始めた谷口さん。自身で描いたイラストをグループ展示に出展したり、缶バッチやポストカードなど自主制作グッズを天神の路上で販売したりと積極的に活動をしてきたそう。谷口さんの二頭身キャラクターは、はっきりとした線が特徴的。このはっきりとした線で描かれた作風にサインペンのタッチが“ちょうどイイ”と谷口さんは語り、デジタル化した時の完成系にイメージが近いものが描けるというのです。
日頃から筆記具にはあまりこだわらず、鉛筆やボールペンなど自分の描きやすいものをその時の気分で使うという谷口さんですが、様々な筆記具を使い絵を描く中で自然とその作風やタッチに相性の良い筆記具を取捨選択していることが伺えます。その数ある筆記具の中で残ったのが、サインペン。ご本人も気づかない間に、作品にしっくりくる万能なペンとして谷口さんの活動を支えているのかも知れません。
シンプルなデザインの中に、
相手に伝えたいメッセージを込める。
谷口さんには、イラストを描く上で大事にしていることがいくつかあるんだそう。
「デザインには必ず意味があるんですよ。というか、意味を持たせたほうが人間は納得しますし、コミュニケーションも生まれる。だから、僕もキャラクターやロゴを作らせてもらう時には、モチーフをただペタッと貼り付けるだけじゃなくて、うまくそのデザインの中に組み込んで、一体感のあるシンプルな表現をするように心がけているんです。」
その言葉の通り、五輪公式キャラクターを製作する時には、シンプルさと日本らしさを軸に構造を作り上げていったそう。五輪エンブレムでも使用された市松模様をあしらったミライトワ。伝統と近未来を掛け合わせたソメイティ。審査をする大人も投票をする小学生も受け入れてくれるような要素を取り入れることで、誰もが納得のいくキャラクターに仕上げたかったのだと言います。
「リオデジャネイロ五輪の閉会式で安倍総理がマリオ姿で登場した時に、日本という国は面白い国なんだぞ!というのを世界に発信したいんだと僕は思ったんです。アニメやゲームに代表される日本の新しい文化を世界へ。だから、モチーフを動物とかにするよりも何か一種の生命体みたいな、宇宙人なのかロボットなのかわからないモノ、そういう存在を作り上げて近未来感を出そうと最初に思いつきました。そこに伝統のモチーフを絡めてギャップを出す。そうすることで近未来の街と神社仏閣や下町という伝統的な文化が共存する“東京”という街そのものを表現したんです。」
どんな作品でも相手に伝わりやすく、少ない要素でシンプルに。谷口さんの狙い通り、ミライトワとソメイティは全国の小学生の投票により圧倒的な支持を得て選ばれたのです。
「僕ね、街中を歩いていて企業のロゴや看板を見て、あのロゴはあの会社の頭文字の一部が入っているんだな、とか。あれはこういうイメージで作ったのかな?って自分に問いかけるのが好きなんです。常にそうやって見て考えることで、自分のネタを貯めていく。たまに、ものすごい意味が隠れたロゴを見つけると“やられたー!”って思うんですよ(笑)。僕もそんな風に“やられたー!”って人に思ってもらえるような要素を組み込みたいなといつも思ってます。」
常日頃からシンプルな中に隠れた「デザインの意味」を観察している谷口さん。それが自分の作品作りのアウトプットにも活かされているのだと力強く語ります。
シンプルでわかりやすく、でも“やられた!”と思われるような新しさを。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、私たちはそんな谷口さんの想いが込められたキャラクターたちを街のあちこちでたくさん目にする事でしょう。「ミライトワ」と「ソメイティ」が、全世界に向けてどんな新しい東京を発信していってくれるのか、これからの活躍が楽しみです。
- 谷口 亮
- 1974年福岡県出身。福岡を拠点にイラストやキャラクターデザイン制作など活動するイラストレーター。同じくイラストレーターである父親の影響で、幼少期から絵を描き始める。本格的に絵の勉強をするため、カリフォルニア州Cabrillo Collegeへ入学。卒業後は、オリジナルキャラクター制作やグッズの販売などを行う。可愛らしい二頭身のキャラクターやポップでオリジナリティのある作風に定評があり、2020年の東京オリンピック公式キャラクターに公募した後、約11万票を獲得して選出。五輪史上初となる一般市民投票から決定したマスコットの生みの親として注目されている。